観光列車「雪月花」は地域と観光をつなぐ“動くステージ”。2026年、同社は地域向け企画や広域観光との連携をさらに強化します。通常列車の役割も見直しながら、“地域とともに育つ鉄道”がめざす未来像を平井社長に伺いました。

えちごトキめき鉄道株式会社 平井 隆志 代表取締役社長
東京都出身。1990年に旧運輸省へ入省し、国土交通省で自動車局整備課長などを歴任。2021年7月から北陸信越運輸局長を務め、地域交通行政に携わる。2024年1月より佐渡市観光交通政策アドバイザー。行政経験を生かし、2024年6月よりえちごトキめき鉄道社長として地域交通と観光振興に取り組む
妙高はねうまライン ― 名称に込めた想い
cocola編集部/「妙高はねうまライン」という特徴的な名称ですが、どのような経緯で決まったのでしょうか。
平井社長/名称は、妙高山に現れる雪形「はねうま」をイメージして付けたものです。地域ならではのシンボルを路線名にしたいという思いがありました。2011年12月から翌2月にかけて公募を実施し、約2,000件もの案をいただきました。その後、株主の方のご意見を伺いながら、上越教育大学の先生を委員長とする検討委員会で議論し、最終的に決定しました。

選考では、「全国の方にも伝わりやすいこと」「商標登録が可能であること」「会社名(えちごトキめき鉄道)やひすいラインとのバランスが良いこと」を重視しました。 弊社の経営理念には“地域に愛され、地域とともに地域の未来を創る”という言葉があります。この名前は、地域の皆さまの声を取り入れて決めたものであり、私たちは「地域と一緒に育てていく鉄道でありたい」という想いを込めています。
2026年(午年)に向けた抱負 ― 「変化を恐れず踏み出す年」
cocola編集部/2026年は午年ですが、どのような一年にしていきたいとお考えですか。
平井社長/午(うま)年、とくに丙午(ひのえうま)には“情熱的”“変化を恐れない”“激しい年”というイメージがあります。私たちにとっても、2026年は“変化から逃げず、一歩踏み出す重要な年”になると捉えています。
ちょうど2026年度から新しい中期計画期間に入り、今後7年間で老朽化した変電所の更新など、大規模な設備投資を進めていく予定です。赤字構造の中ではありますが、新潟県から30億円超の借入支援も受けながら、「安全・安定した鉄道」を将来にわたって維持する責任を果たしていきたいと考えています。
そのためにも、重要性の低い事業は「廃止も含めて見直す」一方で、将来性のある分野には思い切って投資を行うなど、“メリハリの効いた改革”を進めたいと思っています。
「去年やったから今年も同じことを続ける」のではなく、PDCAを徹底し、効果が薄い取り組みはやめ、必要なことに資源を集中させる。2026年を“選択と集中の年”にしたいと考えています。
世の中も大きな変化の中にありますが、その流れをしっかりと見据えながら、地域の足としての役割を守りつつ、会社としても一段の変革に踏み出す一年にしたいと思っています。
観光列車「雪月花」2026年の新展開 ― 地域と観光をつなぐ挑戦
(1)通常列車と雪月花が担う「2つの柱」
cocola編集部/観光列車「雪月花」の2026年の展開について教えていただけますか。
平井社長/当社では「①地域の日常の足の維持・拡大」と「②観光等を通じた地域経済の活性化」の2つを大きな柱としています。雪月花は、その中でも②の中核を担う存在です。 2026年はこの2本柱をさらに強化し、地域の皆さま、観光客、インバウンドのお客さま、それぞれに向けた取り組みを深めていきたいと考えています。

(2)地域連携と地元向け企画
cocola編集部/①の通常の列車は地域の足としてどう生かすかですが、地域との連携を強めるイベントなども開催していましたよね。
平井社長/はい。直江津駅のホームで開催したビアガーデンのように、「駅をにぎやかにして人を集め、その流れで列車に乗っていただく」仕掛けを今後も続けていきたいと思っています。飲酒と鉄道利用をセットにすることで、「車ではなく列車で来る」ライフスタイルの推進にもつながります。

また、沿線の小学生向けに、雪月花に1,500円で20分ほど乗車できるツアーも始めました。地元の子どもたちに「自分たちの地域には雪月花という自慢できる列車がある」と誇りを持っていただきたいという思いがあります。来年以降も継続し、子ども向けや地元向けの企画はさらに増やしていく予定です。
加えて、イベントでは地元飲食店のみなさまに出店していただくことで、売上が地域に還元される仕組みを大切にしています。「会社だけで完結させない」「地域事業者の皆さまとともに作る」スタイルを重視しており、地域主体で沿線を盛り上げるのが理想の形だと考えています。
(3)観光・インバウンドへの戦略強化
cocola編集部/観光客やインバウンド向けの戦略についてはどのようにお考えですか。
平井社長/国内利用者は首都圏と新潟県が中心で、まだ関西方面のお客様は多くはありません。2026年は関西・中部へのPRを強化し、金沢や北陸エリアとの連携企画も視野に入れています。
雪月花のお客様のうちインバウンドは現在約20%で、そのほとんどが台湾からの団体客です。個人旅行客(FIT)は10%程度にとどまっており、ここを伸ばすことが課題です。このため、2025年6月からWILLER TRAVELのサイトでの予約を開始するなど、外国人のお客さまにも使いやすい環境を整えていきます。 また、台湾に加え、シンガポール、東南アジア、欧米など、地域ごとに異なるニーズに合わせた販売戦略・PRも進めていきます。これまでデータ分析に基づく戦略が十分ではなかったため、今後は利用データを活用した販売や情報発信の強化にも取り組んでいきたいと考えています。
(4)企画列車・付加価値サービスの挑戦
cocola編集部/企画列車や特別便についてもお伺いしたいです。
平井社長/雪月花にはリピーターのお客さまが多くいらっしゃいますので、「いつもと同じ企画では満足していただけない」という思いがあります。2026年に向けても、2025年のプレミアムクリスマス便のように、「食事+エンターテインメント」を組み合わせた特別な時間や、金沢駅乗り入れなどいつもと異なるサービスを提供していきたいと考えています。
2025年のプレミアムクリスマス便では
- 地元バイオリニストとギタリストによる車内生演奏
- 2号車での食事から1号車でのコンサートへ移動する構成
という内容でした。これからも雪月花ならではのプレミアムな体験価値を高めていきたいと思っています。 将来的には、著名人とのタイアップ、ディナーショー的な企画など、「推しと同じ車両で過ごせる」夢のある商品も構想しています。ただし、富裕層向けだけに偏らず、地域の皆さまがおいてけぼりにならないよう、地元向けのお手頃な企画も重視していきます。
(5)宿泊・広域観光との連携強化
cocola編集部/地域への経済効果についても力を入れていかれるのですね。
平井社長/はい。これまでは「雪月花に乗る」ことが中心で、上越に宿泊せず新幹線で帰ってしまわれるお客さまも多く、地域への還元という点で課題がありました。
今後は旅館・ホテルとの連携を強め、例えば、2025年10月に実施したHATAGO井仙・ryugonとのタイアップ便のように、雪月花乗車と宿泊をセットにしたプランを増やし、地域への経済的な波及効果を高めたいと考えています。

また、上越一帯の観光資源を“ストーリー”でつなぎ、紙媒体とWeb・SNSを組み合わせた広域的な発信を、民間主導・行政支援の形で実現していきたいという思いもあります。
編集後記
地域とともに歩みながら、新たな挑戦にも踏み出すえちごトキめき鉄道。2026年は“選択と集中”を掲げ、雪月花をはじめとした取り組みが大きく進化する一年になりそうです。地域に寄り添う同社が、これからどのような未来を描いていくのか楽しみです。


